人件費率70%超の介護・福祉施設は必見!現状把握から見えてくる介護・福祉施設の人件費の最適解
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
今日の介護・福祉業界は、物価高騰と賃上げ圧力、慢性的な人材不足により、人件費率が70%に迫る「経営の壁」に直面しています。売上頭打ちの中で、漫然とした昇給は法人の存続を脅かしかねません。この危機を乗り越えるには、人件費を単に「抑制」するのではなく、職員の満足度と事業戦略が合致するポイントに「適正化」することが重要です。本記事では、この「最適解」を見つけるための具体的な分析プロセスとアクションプランを解説します。
1. 介護・福祉業界が直面する「人件費率70%の壁」と経営の限界点
(1)介護施設・福祉施設の売上頭打ちと賃上げ圧力の狭間で高まる人件費率の脅威
今日の介護・福祉業界は、物価高騰と最低賃金の上昇により人件費が増加する一方で、恒常的な人材不足に直面しています。職員の定着を図るには、企業努力として賃金水準を引き上げざるを得ない状況にあります。
多くの経営層の皆様は、「サービスの売上は頭打ちであるにもかかわらず、これ以上賃金を上げるのは無理だ」という切実な悩みを抱えていらっしゃることでしょう。
この状況で最も深刻な指標となるのが人件費率です。私たちがこれまでの支援実績や業界データを分析した結果、人件費率が70%に迫る、あるいはそれを超える法人は、経営の安定性を大きく損なう傾向が明らかになっています。※1
【根拠となる数字】
2023年の業界データによると、赤字に転落した法人の人件費率は平均68.4%に達し、赤字が継続している法人の人件費率は69.5%という高い水準を示しています。この「人件費率70%の壁」を超えてしまうと、仮に一時的な加算取得などで黒字化できたとしても、持続可能な経営基盤とは言えません。このまま対策を講じずに漫然と昇給を続けることは、法人の存続そのものを脅かしかねない、極めてリスクの高い経営判断と言わざるを得ません。
(2)「人件費抑制」ではなく「人件費適正化」が持続可能な経営の鍵
この危機的な状況を乗り越えるためには、人件費を「抑制」するという発想を転換し、人件費を「適正化」するという視点を持つことが不可欠です。
単なる人件費の抑制は、職員の士気低下や離職を招き、結果的にサービスの質を低下させ、さらに売上や評判の悪化につながるという悪循環を生みます。これでは、経営の安定化は望めません。
私たちが提唱する人件費の「適正化」とは、限られた財源(人件費総額)を、職員の満足度と法人の事業戦略が合致するポイントに最適に再配分することです。これにより、職員の納得度とモチベーションを維持・向上させながら、人件費の費用対効果を最大化することを目指します。
人件費率は「削る」のではなく、役割と賃金の整合性を整えることで“適正化”できます。
ただ、どこをどう見直すべきかは法人の給与構造によって異なるため、まずは現状を整理することが重要です。
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2. 成功法人が実践する「最高品質」ではない「最適品質」の追求
(1)成功事例に見る「人件費適正化」の思考法
「人件費を適正化したいが、具体的に何をすればいいか分からない」と感じる施設長や事務長も多いことでしょう。多くの方が、他法人で成功したとされる「最高品質」の事例を探し、それを自法人に導入しようと試みます。
しかし、ここに落とし穴があります。ある法人で効果を上げた人事制度をそのまま自法人で真似しても、必ずしも同じ成果が出るとは限りません。なぜなら、各法人は以下の要素において、それぞれ異なる独自の経営資源と前提条件を持っているからです。
- 経営資源: 職員数、売上規模、資産
- 地域特性: 周辺地域の人口動態、競合施設の数と賃金水準
- 事業特性: サービスの種類、稼働率、加算の取得状況、売上の伸びしろ
- 法人のビジョン: 法人が目指すサービスのあり方、大切にする価値観
したがって、必要なのは、どこかの誰かの「最高品質」ではなく、貴法人の前提条件と戦略に合致した「最適品質」を見つけ出すことです。「この「最適品質」こそが、私たち日本経営が提供するコンサルティングサービスの特徴であり、「自分の施設の現状把握と最適解が分かるのなら、一度相談してみようかな?」という人事制度改革の芽を生むきっかけをつくります。
(2)人事制度改革は「何を守り、何を捨てるか」の選択から始まる
人件費適正化への取り組みは、理想的な制度をすべて実現することを目指すのではなく、「何を守り、何を捨てるか」という戦略的な議論から始めることが重要です。
人件費という限られた財源を効果的に活用するためには、以下の選択を明確にする必要があります。
| 議論の対象 | 従来の「当たり前」の例(見直しの対象) | 守るべき価値(財源を集中させるべき点) |
| 昇給 | 毎年、業績に関係なく一律で昇給がある。 | 評価結果と連動させ、頑張りに報いる部分。 |
| 賞与 | 業績に関わらず、毎回決まった額が支給される。 | 業績と個人評価を反映させ、モチベーションを高める部分。 |
| 手当 | 目的が不明確な家族手当や住宅手当を支給し続ける。 | 役割責任やスキルといった、法人が特に評価したい要素。 |
| 採用 | 周辺地域の水準に合わせ、初任給のみを高く設定する。 | 採用競争力を維持できる最低限の初任給水準と、中堅以降の納得できる賃金カーブ。 |
この議論を通じて、貴法人が最も報いるべき職員層、評価すべき行動、そして最も大切にするべき価値観を明確化し、人件費の配分にメリハリをつけることが「最適品質」実現の第一歩となります。
(3)人件費適正化を実現するための3つの分析プロセス
「最適品質」の人事制度を設計するためには、まずは現状を客観的に把握し、人件費をコントロールするための具体的なデータに基づいた分析が必要です。
①外部環境(地域特性・競合)の徹底的な把握
採用戦略の成否は、地域性をどれだけ深く理解しているかにかかっています。単に周辺施設の求人情報を集めるだけでなく、よりマクロな視点での分析を行います。
- 人口動態の分析: 貴法人の事業エリアにおける人口の増減傾向、特に介護サービス利用層と生産年齢人口の推移を把握します。これにより、将来的な利用者と働き手の確保の難易度を予測します。
- 競合施設の詳細分析: 周辺地域の競合施設の賃金水準、特に初任給水準を正確に把握します。この初任給の「相場」を把握することで、採用競争力を持ちながらも、不必要に人件費総額を押し上げない適正な初任給水準を設定する根拠とします。
②内部環境(経営・業務効率)の把握と人件費以外の改善余地
人件費率の改善は、人件費の削減だけでなく、売上向上と経費削減によっても実現できます。
- 売上向上の余地分析: 稼働率の向上余地、加算の取得漏れの有無をチェックします。特に、取得可能な加算を確実に得られていない場合、それは「失われた売上」であり、人件費率を悪化させる要因となります。
- 経費削減の余地分析: 集中購買による消耗品単価の削減、水道光熱費の使用量の見直しなど、人件費以外の経費にも目を向けます。
- 職員数の適正値分析: 業務量やシフト配置のばらつきを是正することで、本当に必要な人員数を客観的に把握します。業務の偏りをなくし、効率化を図ることは、職員一人ひとりの生産性を高め、結果的に人件費の最適化につながります。
③賃金プロット図による人件費配分の可視化と問題点の特定
現在の賃金体系の問題点を明確にする最も有効な手法が賃金プロット図分析です。
- 賃金プロット図分析: 職員を役職・等級と現在の賃金でマッピングし、役職と賃金の逆転現象や、職種間の不公平感、勤続年数に対して賃金の上昇幅が低い層などを視覚的に特定します。
- 人員構成分析: 職員の年齢構成や勤続年数の偏りを把握し、将来的な退職者予測や次世代を担う管理職候補の不足など、人事上のリスクを洗い出します。
賃金プロット図で可視化すると、給与体系の歪みや“上がりすぎている層/上がらない層”が一目でわかります。
ただ、分析結果を制度改定に落とし込むには、地域相場や評価制度との整合も含めた設計が欠かせません。
▶︎ 賃金・評価・等級まで含めた人事制度改革の進め方はこちら
3. 組織人事の専門家としての私たちの独自支援
(1) 現場を知るコンサルティングが導く「実現可能性」
情報があふれる現代において、コンサルタントが選ばれる理由、それは、単なる理論や情報提供にとどまらず、「実現可能性」の高い解を提供できるからです。
私たちの独自の強みは、グループ内に複数の医療・介護事業所を実際に運営しているという点にあります。この実業経験により、机上の空論ではない、現場目線に立ったコンサルティングを提供することが可能です。
「この制度は現場の負担が大きすぎる」「この手当は職員の納得感につながりにくい」といった、制度導入後に発生しがちな課題を事前に予測し、貴法人の現場で確実に実行可能な、実効性の高い施策をご提案いたします。
(2)客観的な第三者視点による最適な制度設計の追求
人事制度改革は、職員の評価や待遇に直接関わるため、経営層や管理職の間で意見が対立しやすいテーマです。
私たちは、貴法人の外部の客観的な第三者として、これまでの慣習や個人の利害に囚われない、フェアな議論を主導します。
- 経営層の視点:「経営安定化」と「人件費コントロール」
- 現場の視点:「頑張りに見合った評価」と「公平な処遇」
この二つの視点の間に立ち、双方の納得度が高い、バランスの取れた人事制度の設計をサポートします。これにより、特定の部署や個人の感情論に左右されることなく、法人全体の発展に資する最適な制度が実現します。
(3)豊富な実績に裏打ちされたノウハウと信頼性
私たちは、介護・福祉業界の経営支援において、長年にわたり豊富な実績を積み重ねてきました。
2024年9月時点のデータでは、介護施設支援697件、病院支援1,665件という、業界トップクラスの実績を有しています。この多様な事例とノウハウこそが、私たちのコンサルティングの根拠です。
貴法人が抱える人件費の課題は、個別の特殊な問題に見えるかもしれませんが、多くの場合、これまでの実績の中に解決のヒントがあります。私たちは、この豊富な事例から、貴法人の課題解決に最も適した手法やアイデアを抽出・カスタマイズし、貴法人だけの「最適品質」のソリューションとしてご提供いたします。この確かな実績と知見に基づき、貴法人の経営層、施設長、事務長、主任の皆様に安心してご相談いただき、課題解決に向けて共に取り組むことをお約束いたします。
4. 貴法人が今日から着手すべき具体的なアクションプラン
(1)職員の意欲を引き出す「当たり前」の破壊と「動機づけ」の再構築
人件費適正化の核心は、昇給や賞与といった処遇を「当たり前」のものから「動機づけ」のツールへと変えることです。職員の皆様は、「昇給があることが当たり前になっている」「賞与が配られることが当たり前になっている」という状態では、それが頑張りの源泉にはなりにくいものです。
① 昇給・賞与に「動機づけ」の仕組みを導入する
私たちは、昇給と評価結果を明確に連動させることで、職員のエンゲージメントと人件費のコントロールを両立させることをご提案します。
- 評価結果と昇給額の連動: 評価結果に基づき、昇給額に差をつけます。この際、単に金額を伝えるだけでなく、「何を達成したからこの昇給になったのか」をフィードバックすることが重要です。これにより、職員は何を期待され、何を認められたのかを具体的に理解し、次へのモチベーションにつなげられます。
- 等級と連動した処遇の促進: 等級と処遇を連動させることで「この等級に上がれば、これだけの給与が見込める」というキャリアパスを明確に示します。これにより、職員は将来の展望を描きやすくなり、自律的なスキルアップ(内発的動機づけ)を促すことができます。
② 成果連動型の昇給制度で人件費上昇をコントロールする
年功序列的な昇給カーブでは、人件費は青天井で上昇し続け、経営を圧迫します。これをコントロールするために、賃金表の構造自体を見直します。
- 段階号俸表・範囲給表の活用: 従来の「まっすぐな昇給カーブ」ではなく、評価結果によって昇給幅が変わる段階号俸表や、等級ごとに給与の範囲を定める範囲給表を導入します。これにより、人件費の総額を予測しやすくなり、無計画な人件費の上昇を抑制できます。
- 人件費シミュレーションの実施: 新しい制度を導入した場合の人件費総額の将来推移を、既存の制度を継続した場合と比較してシミュレーションします。この具体的な予測データは、経営層にとって「この制度なら人件費をコントロールできる」という確信につながります。
③「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」を効果的に連動させる
職員の真のやる気を引き出すためには、報酬(外発的動機づけ)だけでなく、仕事への意欲や成長といった内発的動機づけにも働きかける必要があります。
- 内発的動機づけの重視: 管理職は、部下に対して「何を認め、何を期待しているのか」を具体的に伝え、褒めや称賛の言葉(外発的動機づけ)を通じて、職員の「有能感」や「達成感」(内発的動機づけ)を高める働きかけが必要です。
- 勤務制限と処遇の連動性の明確化: 育児や介護による勤務制限の有無と、それに応じた処遇を明確に連動させることで、多様な働き方をする職員に対しても、公平性と納得感のある制度を構築します。
(2)諸手当を「法人のメッセージ」として見直す
給与体系の中で、諸手当は法人が「何を重視しているか」を職員に伝える強いメッセージ性を持っています。目的が不明確な手当を漫然と支給し続けることは、人件費を圧迫するだけでなく、法人のメッセージを曖昧にしています。
- 手当の役割の再定義: 現在支給している手当を、「役割責任」「肉体的・精神的負担」「職務・業務関連」「福利厚生」といったカテゴリーに分類し、その手当が本当に法人の事業戦略に資するものか、職員の納得感につながっているかを厳しくチェックします。
- メリハリのある手当構成への転換: 貴法人が特に重要視する要素、例えば「リーダーシップ」や「専門性」を評価するのであれば、役職手当や資格手当を厚くします。その上で、時代の変化や法人の経営状況にそぐわない福利厚生的な手当や、目的が曖昧になった手当の整理・統合を検討します。これにより、人件費の総額を維持しつつも、より効果的な配分を実現します。
(3)まずは「現状把握と最適解のロードマップ」作成から始める
人件費適正化は、法人の未来を左右する重要な経営テーマです。しかし、「コンサルティングは高そう」「どこから手を付けて良いか分からない」と二の足を踏んでいる施設長や事務長もいらっしゃることでしょう。
この不安を解消するために、私たちはまず、貴法人の現状を客観的に可視化し、「最適解へのロードマップ」の方向性だけでも知っていただくことから始めることを推奨いたします。
このレポートを読み終えた今、貴法人の経営層が「自分の施設の現状把握と最適解が分かるのなら、一度、相談してみようかな?」、そして施設長・事務長・主任の皆様が「経営層にこの情報をシェアすれば成果につながりそうだ」と感じていただけたなら幸いです。
※1参照元「2023 年度 社会福祉法人の経営状況について」P4
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/250311_No013.pdf
本稿の執筆者
浦越恵嗣(うらこし けいじ)
介護福祉コンサルティング部
医療機関・介護・障害事業所を中心にコンサルティング実績を有している。『「誰もがその人らしく暮らすことを 選択できる」社会の実現に貢献する』をコンセプトに日本経営の介護福祉専門のコンサルティングチームに属している。
最近では経営者育成講座やセミナー講師など幅広く活躍している。
介護・障害事業所支援については、キャリアパス構築、賃金制度構築、人事考課制度構築、稼働率向上支援、経営分析、コスト削減支援に関するコンサルティングを得意としている。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。


